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競輪を分かりやすく表現してみよう

いかすみのリゾット”だ。
“あさりのスパゲッティ”など、スパゲッティの本場、ナポリへ行けばどこでも食べられそうなのだが、それがそうでない。
何か違うかというと、あさりとスパゲッティのからみ具合で、普通ならサラリとしているところ、この店のものは、やや誇張していえばネットリとしているのだ。
といっても、うどんのようなス弾力があってシャキッとしておりスパゲッティを想像されては困る。
スパゲッティは、もちろんスパゲッティに歯が当たると、いったん押し戻される感じで、そのあとスウーツと入ってゆく。
それにニンニクをきかせたあさりが甘く、スパゲッティに絶妙にからんでゆく。
ナポリの方へ行くと、これにトマトを加えて、“スパゲッティーアーレーヴォンゴーレーロッソ”と言うが、「アルポルト」ではトマトを使わない。
いかすみのリゾット。
これも、わざわざミラノで食べなくてもいいのにと思われるかもしれない。
それが、おっとどっこいといった味なのだ。
リゾットはミラノの名物で、ミラノの南方ポー川流域でお米がとれる。
だが、“リゾットーアラーミラネーゼ”といえば、サフランを加えた真っ黄色のリゾットのことで、”いかすみのリゾット”はどちらかといえば、ヴェネツィアあたりの名物パスタである。
ところが「アルポルト」では、港町に負けない。
いかすみのリゾットを出す。
リゾットというお米料理は、雑炊ともお粥とも違う。
日本で食べる“海の幸のリゾット”というのは、ほとんどが“海の幸入り雑炊”で、イタリアでリゾットを食べるとき汁気を感じたことはいちどもない。
お米に水分を含ませていく点はごはんを炊き上げる場合と同じだが、ごほんのように粘り気があってはいけない。
そうかと言ってお米に芯が残っていてはもっといけない。
芯はないが、一粒一粒の堅さはきちんと残っているお米の集合体、それがリゾットなのである。
だから、日本のお米は、残念ながらリゾットには向かない。
堅さを残せば芯も残り、芯をなくせば堅さもなくなるからである。
時間をかけてゆっくりゆっくりお米にダシを含ませてゆき、それにいかのすみを和える。
新鮮ないかずみは香りがあって甘く、それこそ一粒一粒にしっかりとしみこんで、はふはふいいながら食べるおいしさは格別だ。
味はシンプル極まりないが、精妙な塩加減がそこに奥行きを加えて、ごはん好きにはこたえられない。
この二つのパスタを食べるためだけに「アルポルト」へ出かける値打ちがあるといっても過言ではない。
わたしは、ここへくるとどうしてもこの二品は食べずにおれなくなるから、いつも前菜はパス、そうして、スパゲッティを頬ばり、リゾットに舌鼓を打ったあとは、魚のグリーリアをいただいて、エスプレッソで締めくくる。
いつもこのパターンで、わたしはミラノを満喫する。
ところが、オフシーズンのミラノは天国だが、スカラ座の閉まったあとの、七月八月のミラノは目もあてられない。
ことにバカンスに入ったあとの八月のミラノなど、まるでもぬけのカラである。
だが、その季節にこそ打ってつけのホテルが、ミラノ近郊にある。
ミラノから北へ約六十キロ行くと絹で有名なコモの町へ着く、そのコモから美しいコモ湖がはじまるのだが、湖の西側をしばらく走るとチェルノビオという小さな町に出る。
この町に、イタリアが世界に誇るリゾートホテル「ヴィラーデステ」がある。
ホテルは湖に面していて、とにかく広い。
ホテルの敷地の庭を通って玄関まで辿りつくのに、歩いてゆくとどれくらいかかるだろうか。
十五世紀に建てられた貴族の館を、十九世紀になってホテルに改造したもので、優雅この上ない。
館の横から真っすぐ上に登る径が出来ていて水が流れており、その頂きまで上がると、小さな噴水がある。
かつて、リストがここに泊まって「エステ荘の噴水」を作曲した、その噴水である。
湖のほうに目を向ければ、このホテルには他のホテルには見られないユニークな施設がある。
湖に浮くスイミングプールである。
夏のあいだは、このプールサイドで泊まり客たちが一日中、日光浴をしている。
そうして、夕方ともなれば客室に戻っておしゃれをした客たちが、再び庭先へ出て食事のまえのお酒を楽しむ。
そのまま、ホテルのテラスーレストランヘくりこむ客もあれば、車でもって外出し、街のレストランで食事をする客もある。
じつを言うと、わたしの感想では、ホテルのレストランはあまり感心しなかった。
その代わり、同じコモ湖だが二十キロほど離れたレッコという町の「イルーグリーソ」の料理はおいしかった。
夜遅くホテルへ戻り、朝ゆっくり起きて、窓を開けると湖面が太陽でキラキラと輝き、対岸の光の中に溶けこんだ爽やかな景色が、まことに印象的である。
追記一「マルケージ」は、その後ミラノの店を閉め、現在は、近郊のエルブルスコという小さな村で宿つきレストランを開いている。
ヴェネツィアの「H」にベリーニという名のカクテルがある。
こう書き出すと「H」は酒場のように思われるが、じつはれっきとしたリストランテで、ヴェネツィアー格式が高く、いまでこそ多少評判を落としているが、ひと昔まえまでは「ミシュラン」のニツ星に輝く店たった。
“ベリーニ”はしたがって、アペリティーヴォ、食前酒として供される。
桃のジュースをシャンパン(イタリアではシャンパン、発泡性ワインのことをスプマンテと呼ぶ)で割ったカクテルで、フレッシュの桃が出廻る季節のその鮮やかなピンク色の美しいことといったらない。
もちろん、じつに美味しい。
Tさんの「ヨーロッパ一等旅行」には、オレンジのジュースをシャンパンで割ったスプモーニという食前酒も出てくる。
この「パワースーパー」の。
ベリーニ”が、ヴェネツィアのオペラハウス「フェニーチェ劇場」でもいただくことが出来る。
「カプレアイとモンテッキ」というオフの幕間に、ロビーにあるバーでベリーニを見つけた。
ただし、それは「パワースーパー」製の缶入りのカクテルだった。
「クワトローペリーニ(ベリーニを四つください)」わたしは、もう一度アクセントを強めていった。
「クワットローベッリーニ、ペルーフアーヴォーレ」すると、売り子の女の子が人差し指を一本左右に振りながら、「ノン、ベルリーニー」と、正しい発音を教えてくれた。
ピンク色した小さな缶にそう書いてある。
「H」の名物カクテルの名は。
ベリー一二でも。
ベッリーニでもない、”ベルリーニ“だったのである。
その瞬間、カクテルの。
ペルリー一回が、オペラと結びついた。
いま見ているオペラ「カプレーティとモンテッキ」は、ヴィンツェンツォーペルリーニの作品である。
そのベルリーニに因んで命名したのではなかろうか、と。
そう思いついた途端、「フェニーチェ劇場」の熟れた桃のような色あいの客席の椅子と、あのカクテルの鮮やかな桃色がイメージでつながっていった。
オペラを観て、”ペルリーニ”の謎解きをした翌日、ヴェネツィアで最も有名なアカデミア美術館へ足を運んだ。
ここにはイタリア絵画の歴史で忘れてならない、いわゆる“ヴェネツィア派”の絵が所狭し飾られてあるのだが、その“ヴェネツィア派”の中心的存在が、ペルリーニー族なのである。
わたしは、オペラに夢中になって、このベルリー二一族を忘れていた。
「H」のペルリーニは、これに因んでつけられたに違いない。

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